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航空管制での「データリンク」活用が拡大へ

記事タイトルを変更しました。


ここ数日、「米国連邦航空局(FAA)が、2019年までに航空無線(音声通信)を廃止して全面的にテキストメッセージングに移行することを決めた」という怪情報が一部で出回っています。

発信源のネット記事に、ご丁寧にも、「ソース」としてFAAのリリースがリンクされています。その内容は、ワシントンのダレス空港で"Data Comm"というシステムの運用が始まった、というものです。航空無線廃止のような話は書かれていません。

Data Comm Now at Washington Dulles (FAA)
http://www.faa.gov/news/updates/?newsId=86587

NextGenと呼ばれている航空交通システム刷新計画の一環として、2016年中に主要56空港で、出発承認(クリアランス)のやり取りを新方式のデータ通信に移行する計画になっています。9月27日、お膝元のダレスでの運用開始という機会に報道陣を招いたデモが行われました。

NextGen計画については、予算超過、進捗遅れ、サイバーセキュリティの不備等々で行政監察官から繰り返し糾弾される、という状況があります。FAAとしては、目に見える効果が期待できる案件については、宣伝にこれ努めたいところでしょう。

2019年というのは、Data Commを使った高高度エンルート管制の初期フェーズを始めたい、という目標年次ですが、そこで終わりではなく、まだまだ先は長いです。また、NextGenの中には、音声通信インフラの近代化(NAS Voice System)という計画もあります。さらに決定的なのは、TRACON(ターミナルレーダー進入管制所)にData Comm管制を展開する計画はないのです。(下記2016導入計画PDFの11-12ページ、ページ右下ノンブルでは9-10を参照)

NextGen Implementation Plan, 2016
http://www.faa.gov/nextgen/media/NextGen_Implementation_Plan-2016.pdf

なぜ「航空無線全廃方針」のような根も葉もない話の記事になるのか、まったくもって理解に苦しみます。


(参考情報など)

NBCニュース(動画付き)↓

FAA Says New Communication Technology Could Help Flights Arrive Faster
http://www.nbcnews.com/news/us-news/faa-says-new-communication-technology-could-help-flights-arrive-faster-n649711

つぎの、AP通信記者による、9月27日ダレス空港での報道向け説明会レポートが、「離陸クリアランス、緊急時など一刻をあらそうやり取りは従来どおり無線を使うが、その他の飛行指示は徐々にテキストメッセージに移行中」と、的確に記述↓

Controllers and pilots will still use their radios for quick exchanges like clearance for takeoff and in emergencies and situations where time is critical. But the nation's air traffic system is gradually shifting to text messages for a majority of flying instructions.

Pilots, air traffic controllers shifting to text messaging
http://www.wcax.com/story/33262572/pilots-air-traffic-controllers-shifting-to-text-messaging

Data Comm計画の概要について、FAAの発表スライド↓

Data Communications Program (PDF)
http://www.faa.gov/air_traffic/flight_info/aeronav/acf/media/Presentations/15-01_RD289_Data_Comm_Briefing_Anderson.pdf

(Data Communications Program) Provides data communications services between pilots and air traffic controllers, supplementing existing voice communications capabilities (p.2)

これが最初の一文です。DataCommは既存の音声通信を補完する、という位置づけがわかります。

従来から使われているPDC(出発前承認)とData CommによるCPDLC-DCLの違い(上記PDF p.11)

Pdcdclfaa2015

・PDCでは、ACARSを通じて(会社のオペセン経由で)クリアランスを受け取る。承認の変更は管制官から音声で伝えられる。

・DataCommによるCPDLC-DCLでは、管制官と航空機(パイロット)がデジタルで直接メッセージを交換する。オペセンは希望すればコピーを受け取ることが可能。

・CPDLC-DCLはFANS-1/A規格なので、承認ルートの変更をデータで受け取ってFMCに読み込ませることができ、パイロットによる手入力が不要となる。(米国の事情ではここが重要らしいですが、詳しいことは下に書いたCARATSの報告書を参照ください)

・PDCが廃止されるわけではなく、継続して利用可能。

B737NGでの操作解説ビデオ↓

FAA's Controller Pilot Data Link Communications Services Instructional Video
https://www.youtube.com/watch?v=xUSFgkEyVAU

CPDLC-DCLを利用するには、上述のとおりFANS 1/A (VDL Mode 2 or VDL Mode 0/A)対応機器が必要です。利用者は、飛行計画第18項「その他の情報」に"DAT/1FANSP"や"DAT/1FANS2PDC"などの記載をします。米国でのFANS 1/A装備率は、FAA WEBサイト内"NextGen Equipage Levels"のページに掲載されています。(よくURLが変更されるのでリンクは貼りません)


日本の羽田と成田で実施されている「データリンクによる出発管制承認伝達」は、略称がDCLですが、内容はFAAがPDCと呼んでいるものに相当し、既発出の承認を修正する機能はありません。

CPDLCのほうは洋上管制で使われていますが、今後、陸域のエンルート管制にも導入する方針はすでに出ています。

日本でのデータリンク導入方針↓

Dcljpncarats

将来の航空交通システムに関する推進協議会
ATM検討WG平成27年度 活動報告書

http://www.mlit.go.jp/common/001125079.pdf

ありきたりに「誤報」というにはあまりにもお粗末な「航空無線廃止」の記事でしたが、データリンクまわりの知識を整理する良い機会ではありました。航空無線は、聞いていればだんだん覚えていく”耳学問”のところがありますが、CPDLCなどは実際の運用を部外者が見るチャンスはないので、わかりにくいものです。規格や略語がやたらと多いのも取っ付きにくい要因です。

ちょうど先週公開された2016.10.13付航空路誌改訂版 (AIP AMDT NR17-18/2016)の最初に載っている項目は「航空交通業務データリンク運用の改正」です。ここまでの話を念頭に置いて読むと、内容がよくのみこめるようになりました。


CPDLCについて、おすすめ資料(ENRI、2013年)

航空路管制業務への CPDLC 導入時の業務負荷の変化
http://www.enri.go.jp/report/hapichi/pdf2013/H25_11p.pdf


CPDLCによる通信移管

Dclatssympop35(図:ATSシンポジウム2016)

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