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飛行ルートの「延伸率」と横田空域について考える(3)

下記の続きです。

飛行ルートの「延伸率」と横田空域について考える(2)
http://arctica1.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/post-5235.html


2015年のCARATS協議会報告書には、羽田-大阪間の飛行ルートについて、下に引用する説明図が掲載されています。

Carats201503(出典:将来の航空交通システムに関する推進協議会 2015.3)

羽田では特に西・南方面からの到着便数が多く、西日本とアジア各地から続々と飛来する飛行機を、基本的には1本の滑走路に着陸させています。そのために、かなり手前から順番をつけ、適切な間隔(注)を空けて1列に並べるための作業(管制官の指示で、速度の加減やレーダー誘導)が始まります。間隔が空きすぎれば、貴重なリソースである発着枠がムダになってしまいます。(注 使われる進入方式により異なる。後述ATSシンポの動画で説明されています)

静岡から神奈川の沖合いが到着機を順番に並べる場所(空域)になっていて、Flightradar24などで日々その様子を観察することができます。羽田再拡張後の運用がこなれてきたことが、延伸率の改善につながっているのでしょう。

2010年D滑走路オープンで空域の混雑は改善↓

Rjttkonzatu2015(図:国土交通省「我が国空域の混雑状況」2015)

飛行時間が精密に予測できれば、最適な順番と間隔で到着するように、各便を指定した時刻に離陸させればよいことになりますが、世の中まだそこまで進んでいません。その初歩段階ということで、2011年からSCASとかCFDTと呼ばれる新たなフローコントロール方式が試行されましたが、いま一つうまくいかないため2014年に中断されています。

ちなみに、利用者の立場でよく遭遇するフローコントロールは、「出発制御時刻(EDCT, Expected Departure Clearance Time)の指定」と呼ばれるもので、「航空管制の指示で出発が20時以降になります」などと放送されてガッカリするパターンです。

Cara2016cfdt

CFDTについては、2015年ATSシンポジウムの資料から引用します。

地上側で経路上の複数のウェイポイントの通過時刻を設定し、機上システムで時刻に合わせた飛行となるよう制御し、より効率的に軌道の管理と交通流の生成を実施する。また、運航前に算出したCFDTを運航中に監視し、必要に応じて修正を行うことにより、計画的な交通流形成を行い、交通量の集中を回避する。当初は、国内空域を飛行する混雑空港到着機を対象として運用を開始し、その後、洋上空域を飛行する航空機や隣接FIR に出域する航空機に対象を段階的に拡大する。

ATSシンポジウム
http://japa.or.jp/learning/symposium/ats.html

抜本的に混雑状況を解決する方法は、滑走路を増設して発着枠を増やすことですが、場所、カネ、工期、などの問題があり、かなり難しいと思われます。滑走路増設以外で発着枠を追加するために、さまざまな方策が検討されています。都心上空を使う新しい進入ルート(南風運用時)の計画も、この文脈の中で理解できます。

最後に、いくつかの路線について迂回率を表にしたものを貼ります。延伸率の対象路線以外も適宜追加しています。(上述の「延伸率」とは異なるので、当サイトで作成したデータは迂回率と称することにします)

まず、大圏距離と飛行計画ルートの差についてです。(SkyVector.comを利用。距離はNM、海里で表示)

Hnddetourfpl1

Hnddetourfpl2

羽田-伊丹間では、西行きが12%、東行きが32%の迂回率となっています。短距離路線としては、まずまず効率的なルートでしょう。河和まで同じルートを使う羽田→関空線の迂回率は2倍近くあり、羽田ではなく、関空側の事情による迂回が大きい、と解釈します。

富山線については、別の空域制限(富山上空に自衛隊訓練空域、岐阜基地関係)があり、かなり多めの迂回率になっています。

SkyVectorのフライトプラン機能で、北方面からSTONE経由での到着ルートを作成すると、勝手にSTEAM ARRIVAL(南風悪天時の到着方式)が付加されます。SkyVectorにて、STONEからSTEAM ARRIVALではRJTTまで53.8NMですが、進入ルートが変わると、距離がかなり違ってきます。(北風時は西・南からの到着が近く、南風時は北からの到着が近い)

標準到着ルート(STAR)始点から滑走路までの距離(単位はNM)

Rjttappdist

つぎは、実際の航跡をFlightAware.comのログから適当に選んだものです。

FlightAwareでは、地上走行時間と飛行時間(離陸-着陸)を区別して記録されています。

Fawnh9851

羽田行きは1~2割かそれ以上に遠回りですが、上空の風の影響もあって、最短の飛行時間にはあまり差がありません。(空いている時間帯はむしろ速い)

羽田-伊丹については、混雑時間帯と思われる夕刻の便と比較しました。同じルートでも15分くらいの差がざらにあります。混んでいる時間帯には必ず遅れるわけでもなく、タイミング次第で増速やショートカットになることもあるためか、日によって意外と速いこともあります。

Hnddetourrate

(1)
空港間の大圏距離。単位はNM(海里、kmに換算するには1.852を掛ける)

(2)
サンプルとした便名。次のような観点で選びました。

  • 早朝に出発する便(航路や空港混雑の影響を受けにくい)
  • ADS-B搭載機(正確な航跡が記録される)
  • 那覇線は追跡の途切れているところが長いため除外
  • 直近2週間ほどで最短時間のもの
  • 羽田-伊丹については、混雑時間帯と思われる夕方の便とも比較

(3)
FlightAwareのログで示された飛行距離

(4)
飛行時間(地上走行時間を含まず)

(5)
大圏距離に対する迂回率

(6)
平均(対地)速度(ノット)
飛行距離、時間から算出


長くなりましたが、要点は下記のとおりです。

  1. 空港間の大圏距離と実際の飛行距離を比較することで、飛行ルートの効率性を計るという方法がある。(延伸率)
  2. 羽田→伊丹の延伸率は10%程度でしかない。現状最短40分の飛行時間が30分、いわんや20分になることは無理。
  3. 横田空域が羽田発着機の効率的な飛行の妨げになっていたのは過去の話。2008年9月の空域削減で解決済み。
  4. 羽田到着ルートの空域混雑は滑走路の容量を使い切るほど便数が多いことが原因。横田空域は無関係。
  5. 「横田の飛行ルートが使えれば効果莫大」などと唱える方々の説は漠然としていて、具体的な根拠が不明。
  6. 「横田空域は民間機飛行禁止」は完全なデマ。

(補足)迂回率の大きい富山→羽田線について(2017.4)

2017年初に、早朝の富山→羽田便で出発前に「通常より短縮したルートで運航する」との案内があった、という話を見かけました。(搭乗された方のブログと記憶しますが、URL不明)

事前に「短縮ルート」が予告されたということは、飛行中に管制からショートカットの許可が出るという形ではなく、フライトプランの段階から短縮ルートになっていたはず。航跡図を当たってみると、確かにそれらしきものが見つかり、速いものでは飛行時間41分と、平均よりも10分程度短くなっていました。

横田空域に入ることはなく、上限を超える高度で通過しており、現状でも10分程度の短縮は可能、ということがわかります。航空路(エンルート)管制が到着便の順位付けを行い、適切な間隔に並べてから進入管制に引き継がれますが、到着便の少ない早朝なら融通がきくのでしょう。日中以降の時間帯には、ここまでの短縮は行われていません。

南北からの2本がある羽田への到着ルート(到着機の列)のどちらかに並ぶことになるため、仮に途中の飛行ルートが短縮できたとしても、単純に最短距離で飛べるようになるものでもありません。

また、50分の飛行時間が半分になったりすれば、道中シートベルト着用サインが点灯したまま、あるいは、お茶1杯のサービス時間にも事欠くような慌しいフライトかもしれません。ひたすらに時短を追求しさえすれば、利用者の支持を得られるというものでもないような気がします。

今後、航空管制システムの高機能化が進めば、混雑時間帯でもルート短縮につながる可能性はあり、もともと短い富山線はともかく、一部こちらのルートに回っている米子や石見→羽田便などには恩恵があると思われます。

別エントリとしてまとめる予定でしたが、時間もないので、以下に航跡図をいくつか貼って終わります。

富山→羽田 標準ルート
http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/rjntrjttrjty.html

横田空域を越えられない高度(FL230以下)の場合は、新潟回りのルート(HISUI GTC Y303 KAMOH)が指定されています。

早朝便の航跡図。推測(想像)した短縮ルートを青色で描いてあります。実際のところは不明です。

http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/170103ana312.html

http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/170104ana312.html

http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/170112ana312.html

http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/170224ana312.html

http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/170226ana312.html

他の便(時間帯)の航跡

http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/170104ana316.html

”北回り”ルートの米子・鳥取→羽田

http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/170428ana388.html

http://arctica1.cocolog-nifty.com/fw3/170428ana298.html


2017. 5.22

2017年3月に行われた「第7回将来の航空交通システムに関する推進協議会」の資料が国土交通省WEBサイトで公表されていました。このうち、「参考資料1:CARATS施策集」によると、交通量増大に対応し、ターミナル空域運用の効率化を図るための施策として、「PMS(ポイントマージシステム)」の導入方針が打ち出されています。運用開始目標は2020年。

上記資料に掲載の説明図です↓

Pointmerge(図出典:国土交通省)

欧州などでよく見られる「トロンボーン方式」(下図はフランクフルト)とはまた別の手法のようです。

Tromboneeddf(図:AIP GERMANY)

PMSの実例として、オスロ・ガーデモエン空港 (OSL / ENGM)のRNAV STAR RWY19L/Rを貼ります↓

Pmsengm19lr(図:AIP NORGE by Avinor)

Eurocontrolの資料などによると、以下のような仕組みで適切な間隔の到着流形成を図る方法とのことです。

2つ以上の方向から到着機を、バウムクーヘンを思わせる扇形のへり(縁)を飛行している間に、タイミングを計って順次マージポイント(上図オスロの例で言えばTITLA)に直行させます。

進入管制からコースに関する指示は、"Direct TITLA"のように合流点への直行だけが使われ、それまでは図示されたとおりのルートをRNAVで(つまり、FMCのナビゲーションで、自動で)飛行することになります。

従来からの、レーダーベクターでheadingを振って間隔を整える方法と比べて、管制、パイロットの双方にとって負荷が軽減され、効率も良い、という利点があります。

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